月の砂漠でプロポーズ

 がーん。
 人ってショックを受けると、ほんと脳内に擬音というか文字が浮かぶんだ。

「最初から犯罪目的だったのか、そこは本人に聞かないとわからないですが。社長の林公男(はやし きみお)が女性から金をだまし取った挙句、高飛びしてますからねぇ」

 林は私を囮にして、事件の数時間前にフィリピン行の飛行機で出国していたらしい。

『いくら遺留してもだめです。私は●月×日の! △△△便で海外に行きますからねっ』

 メールをしておいたのが仇になったのか……。

 ううう。
 ワックスを拭き残して、足を滑らせてやればよかった。
 そんでもって腰を強打して女性をナンパできなくなればよかったのに。
 そんなことはプライドにかけてしないけど。

「それでですね……、林は名を騙って顧客宅に入り込んでは女性とその、逢瀬を重ねていたようですね。彼女達の供述によりますと」

「!」

 ……掃除してきた数々の部屋の乱れっぷりが脳裏に浮かんだ。
 思い当たることが多過ぎる。

 うわあああ。

 頭をかかえた私に同情的ながら容赦のない言葉が降ってきた。

「そしてですね……、林に騙された女性達が連帯保証人である高畑さんも起訴すると宣言してまして。返済できないのならば、林ならびに貴女の預貯金差し押さえの申請をしています」

 ごん。

「大丈夫ですかっ」

 慌てた声が後頭部から降ってくる。
 じんじん痛い。
 今の音、私のおでこが机にぶつかった音だ。