私の小さな質問に、諒さんは逃げなかった。

「食品会社の社長から、令嬢との見合いをドバイでと持ち掛けられたのは本当」

 なにが嘘だったんだろう。

「也実に結婚を持ち掛けたときには、もうその話はなくなっていた」

 持ち掛けられて、即刻断ったのだという。

「也実を口説く、チャンスだと思った」
「離婚は」

 強い瞳でのぞきこまれた。

「するつもりはない。也実が怯えると思ったから、遡って無効にできることも教えたけれど。教えたくなかった。離婚したいと思わないよう、この旅行で口説きまくるつもりでいた」

 彼の首にしがみついて、私はねだった。

「諒さんと一緒の部屋で過ごしたい。ううん、一緒のベッドで眠りたい」

「也実」

「諒さん……っ」

ようやく、欲しがっていた彼の熱と重みを与えられた。

 根無し草だった私が定着したような。
 諒さんという大地に根をおろしたのだと思った。