カリスマ美容師は閉ざされた心に愛をそそぐ



 ボンヤリとした視線の先に見えたのは、椅子に掛けてある黒いコート。


 あれ…?わたしの…?


 でも何となく違うような??


 ベッドからゆっくりと身体を起こし、目をパチパチしながらもう一度見れば、男性用??おじさんの??



 だったらどうして??


 頭の中が???だらけ…


 寝ぼけているのかなぁ~…


 また…ためいき…


 昔テレビだったか?ため息ばかり吐き出していると、幸せが逃げるって話。


 本当なのかもしれないな、なんて…


 きっと私から幸せが全部ため息のせいで、逃げたのだろう。


 思わず苦笑い、納得してしまう自分に笑いたくなってくる。


 でも心には、雨が降りだしてきそうな…


 “ウーン”殿ちゃんが私の顔をジット見る。


 “ごめん、ごめん”と頭を軽く撫でてやれば嬉しそう。


 私も辻本さんにこうされたかった…


 急に顔に熱が集まり、何を考えているのわたしー!


 


 思いを打ち消したくて、枕に頭を埋めれば切った小指がズキッと痛む。


 赤く滲んでいる。新しいのに交換しなきゃ、そう思うのに…



 なんで…。


 私を良く知らないのに、彼氏のフリなんて、何故優しくするの……


 私は何故こんなに、切ないの…


 笑顔にならなきゃ…ね。


 誰も心配させたくないから。


 私の心の隙間にスッと入ってきた人。