「おさきーー」


 『ちょっと、辻本さん練習を見てくれる約束はー!』


 「わるい!急用!この埋め合わせは後でするからー、田中にでも付き合ってもらってくれー」


 『辻本さーん、そんなー!』

 俺はアシスタントの声も聞かずに“きずな”に急いだ。


 昼間、月が体調が悪いと聞いてから、早く会いたくて、会いたくて心ばかり焦った。


 必死に仕事中冷静になれと、今日ほど自分にいいきかせたことはない。



 走っているのに店が見えて来ない。


 こんなに距離が離れていたのだろうか?



 サラリーマンの人混みをかきわけ、走っている俺をチラチラと見る目なんて気にしていられない。


 冬の冷たい風も夜の冷えていく温度も、俺には関係ない。


 月への気持ちが身体中を熱くする!


 いつの間にか俺の心を支配した女。