カリスマ美容師は閉ざされた心に愛をそそぐ



 『ギリキリで悪いが、からあげ弁当、だめなら焼肉たのむ!!』

 私は一瞬頭が追いつかず、中から伯母さんが辻本さんの声に気づいて急いで出てきた。

 
 「直ぐに用意するから、雨が降ってきたわ二人共早く中に入って、ほらほら」


 私は伯母さんに背中を押されやっと気づき。


 「月ちゃん、辻本さんにタオルお願い」


 伯母さんは厨房へ。


 私は少し髪の濡れた彼にタオルをそっと渡す。


 私は今どんな顔をしているんだろう…


 「はい、からあげ弁当それとサービスで煮物も持っていって」


 『ありがとうございます、それから…』


 いきなりくるっと私に身体を向けて


 『あーそれと、今度配達は月が来てくれよ返事は?』


 私に拒否させない、強く低い声。


 「あっ…、はい…」


 『約束したからな!』


 辻本さんに傘を渡し、急ぎ足でお店に戻っていく、その背中を私は見つめて。


 私の髪も濡れていく。

 雨で寒いはずなのに、心臓が激しく鼓動し身体が熱い。


 身体からは熱が冷めていかない、でも心は冷えたまま…


 どうしてわざわざここまで、来てくれたの?


 答えなんてないよね…。


 きずなのお弁当が食べたかっただけだよきっと。


 ため息は雨と一緒にアスファルトに吸い込まれていった。