新幹線で約1時間、遠くには雪山が見え、市内には大きな川がゆったりと流れ、緑が多い私が育った田舎町。


 弁当屋の定休日は日曜日。私は今日田舎に帰ってきている。


 実家に帰る為ではなく、ある場所へ訪れるために。


 高台にあるこの場所からは街全体が見え、ここに来ると時が止まっているような、タイムスリップしている気分になってきた。


 一気に意識が過去に戻り、あの頃の記憶が鮮明に蘇る。


 山から吹く冷たい風がグルグルと私を囲み、大翔の幻を見せ……。


 触れたいと手を伸ばせばふありと消えていく。



 どうしてこんなに忘れられないの…

 
 何故、私はこんなにもあなたに…



 時がたつほど、記憶がダイヤモンドのように、キラキラと眩しく、輝きが増していく。


 全く色褪せることが無い、私の恋。


 普通の恋のはずなのに、こんなにも心が支配されて。


 貴方との恋の引き出しは直ぐに出せるのに、貴方の温もりの引き出しはもう無い。



 手の温かさを忘れてしまった…



 今年の冬はいつも以上に寒い。冷え切った私の心を温めてよ。



 大翔の優しい笑顔さえも、冷たい風は私の心から容赦なく奪っていく。