「それより……どうしてここに?智花
と出掛ける用事があるんじゃないのか?」
帰り支度を終え、その足でここに立ち
寄ったらしい侑久をちらりと見て訊く。
そもそも、侑久がここを訪れること自体
が稀で、昨日のことを思い起こせば嫌な
予感しかしない。
もしや教師失格だと、責め立てに来たの
だろうか?だとしたら、ここはその場所に
うってつけだ。
そんなことを考え、目を逸らしたまま
俯いた千沙に、侑久は笑って首を振った。
「智花と?俺は別に約束してないけど」
「えっ?だって、智花が夕食は要らな
いって……私はてっきり相手は侑久だと」
「ああ……そういう風に言ったのか。
違うよ。相手は俺じゃない」
きっぱりと否定しつつも、意味深な
物言いをした侑久に、千沙は首を傾げる。
智花の相手は侑久じゃないとして、
じゃあなぜ侑久は自分の元へ来たのか?
問いかけるような眼差しを向けると、
侑久は姿勢を正し、真っ直ぐに千沙を
見つめた。
「実は、ちぃ姉に渡したいプレゼント
があって来た」
「プレゼントって、まさかクリスマス
プレゼントか?」
驚きのあまり目をぱちくりさせている
千沙に、侑久は微笑みながら頷く。肩から
提げている鞄を見れば、いつもより膨らん
でいる気がしないでもないが……。
――でも、どうして今年に限って???
侑久と出会って14年経つが、クリスマ
スプレゼントを貰ったことも、あげたこと
だって一度もなかった。
「あ、ありがとう。何だかよくわからな
いけど……貰えるなら有難くいただくよ」
ちら、と鞄を見やりながらそう言うと、
千沙はおずおずと片手を差し出した。
侑久は笑みを深め「じゃあ」と鞄に手を
差し入れる。
「今から手に載せるから、目を瞑って」
「目を?」
「そう。ちぃ姉がびっくりする顔を見た
いんだ」
「わ……わかった」
いったい、どんなプレゼントを用意した
というのか?まったく見当が付かないまま、
それでも素直に目を閉じると、千沙は何が
掌に載せられるのか、どきどきしながら
待った。けれど、数秒経っても手に何かが
載せられる感触はなく、代わりに大きな手
に両肩を掴まれる。どきりと鼓動が鳴って
千沙が目を開けた瞬間、視界に侑久の長い
睫毛が映り込んだ。そして、柔らかな温も
りに唇が覆われる感触。
「……!!!」
――侑久に口付けられている。
その驚きと羞恥に、千沙は開いたばかり
の目を再び強く瞑った。
じん、と沁みてくる甘やかな温もりと、
侑久の柔らかな感触。薄く開いた唇に濡ら
されてゆく感じは、昨日、御堂に与えられ
たそれと似ているのに、どうしてだろう?
胸が張り裂けてしまいそうな切なさと、
幸せに涙が溢れてしまう。
と出掛ける用事があるんじゃないのか?」
帰り支度を終え、その足でここに立ち
寄ったらしい侑久をちらりと見て訊く。
そもそも、侑久がここを訪れること自体
が稀で、昨日のことを思い起こせば嫌な
予感しかしない。
もしや教師失格だと、責め立てに来たの
だろうか?だとしたら、ここはその場所に
うってつけだ。
そんなことを考え、目を逸らしたまま
俯いた千沙に、侑久は笑って首を振った。
「智花と?俺は別に約束してないけど」
「えっ?だって、智花が夕食は要らな
いって……私はてっきり相手は侑久だと」
「ああ……そういう風に言ったのか。
違うよ。相手は俺じゃない」
きっぱりと否定しつつも、意味深な
物言いをした侑久に、千沙は首を傾げる。
智花の相手は侑久じゃないとして、
じゃあなぜ侑久は自分の元へ来たのか?
問いかけるような眼差しを向けると、
侑久は姿勢を正し、真っ直ぐに千沙を
見つめた。
「実は、ちぃ姉に渡したいプレゼント
があって来た」
「プレゼントって、まさかクリスマス
プレゼントか?」
驚きのあまり目をぱちくりさせている
千沙に、侑久は微笑みながら頷く。肩から
提げている鞄を見れば、いつもより膨らん
でいる気がしないでもないが……。
――でも、どうして今年に限って???
侑久と出会って14年経つが、クリスマ
スプレゼントを貰ったことも、あげたこと
だって一度もなかった。
「あ、ありがとう。何だかよくわからな
いけど……貰えるなら有難くいただくよ」
ちら、と鞄を見やりながらそう言うと、
千沙はおずおずと片手を差し出した。
侑久は笑みを深め「じゃあ」と鞄に手を
差し入れる。
「今から手に載せるから、目を瞑って」
「目を?」
「そう。ちぃ姉がびっくりする顔を見た
いんだ」
「わ……わかった」
いったい、どんなプレゼントを用意した
というのか?まったく見当が付かないまま、
それでも素直に目を閉じると、千沙は何が
掌に載せられるのか、どきどきしながら
待った。けれど、数秒経っても手に何かが
載せられる感触はなく、代わりに大きな手
に両肩を掴まれる。どきりと鼓動が鳴って
千沙が目を開けた瞬間、視界に侑久の長い
睫毛が映り込んだ。そして、柔らかな温も
りに唇が覆われる感触。
「……!!!」
――侑久に口付けられている。
その驚きと羞恥に、千沙は開いたばかり
の目を再び強く瞑った。
じん、と沁みてくる甘やかな温もりと、
侑久の柔らかな感触。薄く開いた唇に濡ら
されてゆく感じは、昨日、御堂に与えられ
たそれと似ているのに、どうしてだろう?
胸が張り裂けてしまいそうな切なさと、
幸せに涙が溢れてしまう。



