午前中のうちに終業式と帰りのHRを
終え、その後すぐにここへ来たからまだ
陽は高い。摺りガラスから漏れる陽光に
目を閉じれば、やさしい温もりに睡魔が
襲ってくる。いっそのこと、この場所で
冬眠でもしてしまおうか?
そんなつまらないことを考えてしまい、
千沙は思わず苦笑いを浮かべた。
「これじゃ、引き篭もり教師だな……。
情けない」
だて眼鏡を外し、胸ポケットに掛ける。
今朝、侑久とは廊下ですれ違ったが、
目を合わせることさえ出来なかった。
職員室で顔を合わせた御堂は、まるで
何事もなかったかのように話しかけてき
て……今ごろは志望校変更に悩む生徒の
相談に乗っていることだろう。だから、
ここ数日の出来事に心を砕いている千沙
にとっては、ここが唯一の安息の場所で、
冷静に自省できる数少ない場所で、カト
リック教徒ではないが、あの小窓に向か
って告解※でもしたい気分だった。
「さて、残り半分を仕上げるか……」
そう呟き、くるりとデスクを振り返っ
た時だった。
――コンコン。
執務室の扉がノックされ、千沙は緊張
に目を見開いた。
「……は、はい」
ドアの向こうに立つ人物に心当たりが
なく、千沙はそこに立ち尽くしたままで
返事をする。
御堂が進路相談を終え、ここへやって
来たのだろうか?それにしては、少々
早すぎる気もする。そんなことを考えな
がら耳を澄ましていると、真鍮製の丸い
ドアノブが回った。ゆっくりと扉が開く。
扉が開け放たれた瞬間、そこに立つ
人物を見た千沙は、驚きに鼓動を止めた。
そこには、合わせる顔もないと避けて
いた、けれど、本当は会いたくて仕方な
かった、侑久が立っていた。
「やっぱり、ここにいた」
部屋の奥に突っ立っている千沙を認め
ると、侑久はドアを閉め中に入ってくる。
向けられる笑みは以前と何ら変わりな
く、そのことに戸惑いながら顔を強張ら
せていると、侑久は千沙の傍らに立ち、
ぐるりと部屋を見回した。
「執務室っていうより、倉庫みたいだ。
こんな所で作業してて、ちぃ姉は息苦しく
ないの?」
肩を竦めてそう言った侑久に、千沙は
小さく首を振る。予想だにしなかった侑久
の来訪だけでもびっくりなのに、御堂と
同じく、何も見ていないかのような振舞い
に、どんな顔をしていいかわからない。
「ここも、空調が効いてるから……」
ようやくそのひと言を喉から絞り出す
と、「なるほどね」と納得したような、
していないような顔で侑久は頷いた。
※赦しを得るために、カトリック教徒
が司祭を相手に己の罪を告白すること。
終え、その後すぐにここへ来たからまだ
陽は高い。摺りガラスから漏れる陽光に
目を閉じれば、やさしい温もりに睡魔が
襲ってくる。いっそのこと、この場所で
冬眠でもしてしまおうか?
そんなつまらないことを考えてしまい、
千沙は思わず苦笑いを浮かべた。
「これじゃ、引き篭もり教師だな……。
情けない」
だて眼鏡を外し、胸ポケットに掛ける。
今朝、侑久とは廊下ですれ違ったが、
目を合わせることさえ出来なかった。
職員室で顔を合わせた御堂は、まるで
何事もなかったかのように話しかけてき
て……今ごろは志望校変更に悩む生徒の
相談に乗っていることだろう。だから、
ここ数日の出来事に心を砕いている千沙
にとっては、ここが唯一の安息の場所で、
冷静に自省できる数少ない場所で、カト
リック教徒ではないが、あの小窓に向か
って告解※でもしたい気分だった。
「さて、残り半分を仕上げるか……」
そう呟き、くるりとデスクを振り返っ
た時だった。
――コンコン。
執務室の扉がノックされ、千沙は緊張
に目を見開いた。
「……は、はい」
ドアの向こうに立つ人物に心当たりが
なく、千沙はそこに立ち尽くしたままで
返事をする。
御堂が進路相談を終え、ここへやって
来たのだろうか?それにしては、少々
早すぎる気もする。そんなことを考えな
がら耳を澄ましていると、真鍮製の丸い
ドアノブが回った。ゆっくりと扉が開く。
扉が開け放たれた瞬間、そこに立つ
人物を見た千沙は、驚きに鼓動を止めた。
そこには、合わせる顔もないと避けて
いた、けれど、本当は会いたくて仕方な
かった、侑久が立っていた。
「やっぱり、ここにいた」
部屋の奥に突っ立っている千沙を認め
ると、侑久はドアを閉め中に入ってくる。
向けられる笑みは以前と何ら変わりな
く、そのことに戸惑いながら顔を強張ら
せていると、侑久は千沙の傍らに立ち、
ぐるりと部屋を見回した。
「執務室っていうより、倉庫みたいだ。
こんな所で作業してて、ちぃ姉は息苦しく
ないの?」
肩を竦めてそう言った侑久に、千沙は
小さく首を振る。予想だにしなかった侑久
の来訪だけでもびっくりなのに、御堂と
同じく、何も見ていないかのような振舞い
に、どんな顔をしていいかわからない。
「ここも、空調が効いてるから……」
ようやくそのひと言を喉から絞り出す
と、「なるほどね」と納得したような、
していないような顔で侑久は頷いた。
※赦しを得るために、カトリック教徒
が司祭を相手に己の罪を告白すること。



