湧き上がってくる気持ちをぎゅっと堪えてほんの一瞬だけ目を瞑る。

心をリセットして、最初からなかったことにして、言うべき言葉を口にする。

たったそれだけ。

それだけで全部上手くいく。

何度も繰り返すうちに前よりすんなりできるようになった。

今はもう罪悪感はほとんどない。


これを続けることが心によくないってことは分かっている。

それでも、やめようとは思わない。

だってほんの一瞬の我慢で得られる穏やかな時間を私は知ってしまっているから。

その時間が本当に大好きだから。


それにたとえ心に傷がついても手当ての仕方は分かっている。

誰もいなくても、どこにいても、できること。

ただ鞄の中にある一冊を取り出して文字を追えばいい。

そこに詰まった悲しみが、温もりが、愛おしく思う気持ちが、その傷を癒して欠けた部分を埋めてくれる。

埋まったことにほっとして手の中にあるそれを大事に抱きしめる。

それだけで私はまた明日も生きていける、

笑顔でいられる。

ちょっと傷がついても心は壊れない。

丈夫にできてるおかげで応急処置だけでまた動き出してくれる。

みんながみんなそうじゃないと思うけど少なくとも私の場合はそうだから、これでいい、何の問題もない。


それなのに、ここ最近はそれがなかなか上手くいかない。


理由もなく寂しくなって不安で泣きたくなる。

大好きな本を開いてもその中に詰まっているものに満たされる前に押し潰されそうになって心が苦しくなる。

上手く息ができなくて開きかけたそれを鞄の中へ戻す。


もうどこにも行きたくない。

もうどこにもいたくない。


鼓動だけが私の身体を揺らすほど大きく、重く、響いている。

こういう時はどうするべきなんだろう。

周りにいる頼れる大人に、親や友達や先生に"相談"するのが正解なんだろうか。

もしそれが唯一の解決策だとすれば、

私はおそらくこの沼から永遠に抜け出せない。


"相談"


その二文字は今の私にとって何よりも遠いものだから。

応急処置でこなしてきてしまったからこその落とし穴。

相談したい人を、私は知らない。

何がどうなって今こうしてここにいるのか自分自身でも分からない。

こんなこと言うべきじゃないけれど。

たとえ相談する相手を見つけたとしても返ってくる言葉はその人の価値観や性格だった場合の答えでしかないし、相手を見ればその人がかける言葉は容易に想像できる。

だから自分でも分かっていない答えを他人が見つけられるわけない、って思ってしまう。

この考えが一番の間違いであることは分かっている。


だけどやめられないの。

そう思わないでいられる自分が全く想像つかないの。

"助けてほしい"

たったその一言を口にできたらどれだけ楽になれるんだろう。

私は今日もそう思いながら生きている