「はぁぁぁ」
灰色の空を見上げ、大きなため息をひとつ。
バケツ片手に立つ姿。
すぐそばで見た背中。
『ごめん』って言葉と一緒に降ってきた、タオル。
『待ってる』って、優しく響いた声。
ぶかぶかの、ジャージとカーディガン。
温もりが残るマフラー。
きれいな横顔。
思い出して、苦しくなる。
返すものを返しちゃったら、会う理由がなくなってしまった。
勇気がなくて、会いに行けなかったくせに。
「どこかで偶然、会えたりしないかな」なんて、期待したりもして。
「はぁぁぁ」
バカみたい。
「お。もしかして、二階堂じゃね?」
……え?
ジャージ姿に、大きなバックパックを背負った彼は。
「拓海、くん……?」
「そう!」
ピンと伸ばした人差し指をあたしに向け、クリクリした目を見開いているのは、小・中学校と一緒だった坂下拓海くん。
「なんだよ。元気してた?」
「うん。元気!」
「あはは。めっちゃ久しぶり!」
「今もサッカー頑張ってる?」
「うん。今日も練習だった」
整った顔立ちと、明るい性格。その上サッカーも上手で、人気者だった拓海くん。
電車で片道一時間の、部活動が盛んな高校に進学した。
中学卒業以来、会うのは今日が初めてだ。



