「最近、この辺りでひったくりがあって、」
そう言いながら、一歩前に出た旺太くん。
また一歩、そしてまた一歩。
距離が縮まるのと比例して、あたしの心臓の動きが速くなる。
あたしが、必死になって先輩の腕にしがみついてるというのに。
旺太くんは先輩の目の前に、顔色ひとつ変えずに立つんだ。
「ひったくり?だからなんだよ」
「だからさ、」
旺太くんは、先輩の振り上げた左手をパシンッと音を立てて払うと、あたしを先輩から引き剥がした。
「警察がウロウロしてるけど。いいの?」
旺太くんはあたしの手を引っ張ると、そのまま庇うように自分の後ろに移動させる。
……どうしよう。
旺太くんの背中が、「大丈夫」と言ってくれてるみたいで。
涙が止まらない。
「あんたがなにをしようとしたのか知らないけど。こいつ、ケガしてるし。ヤバいんじゃない?」
旺太くんの陰からチラリと見た先輩は、険しい表情をして、吐き出す言葉を探しているみたいだった。
「どうする?」
旺太くんの問いかけに、落ちていたスクールバッグを拾い上げた先輩は、苛立ちをぶつけるように、転がっていたバケツを蹴り飛ばした。
バケツが耳障りな音を響かせると、先輩は濡れた髪を乱暴にかきあげ、公園をあとにした。



