「そっちこそ、なにやってんだよ」
手にしていたバケツを放り投げた旺太くん。
落ちたバケツの音が大きく響いた。
なんで、いるの?
……なんで?
さっきとは比べものにならないくらい、目の奥が熱い。
次から次へと流れ落ちる涙が、やけに温かく感じた。
旺太くんが滲んでいく。
息ができないくらい、胸が熱い。
「ふざけんなよ」
「ふざけてんのは、そっちだろ。嫌がってんじゃん」
先輩の低い声にも、旺太くんは動じない。
バケツいっぱいの水をかけられた先輩は、あたしの左手を解放すると、一歩前に出た。
「……だ、めっ」
咄嗟に、あたしを解放したばかりの先輩の右腕を掴んだ。
離せよ、と低い声にも首を横に振る。
「殴らせろ」
「なんで?」
「じゃないと、気が済まない」
「殴り合うつもりはないけど」
気だるそうな旺太くんの声。
視線を旺太くんに移せば、ふぅっと小さく息を吐き出したのがわかった。
先輩の怒りを鎮める方法なんて、知らない。
あたしにできることは、二メートルにも満たないふたりの距離を、これ以上縮めないようにすること。
先輩の腕を引っ張って、旺太くんから遠ざけることぐらいだ。
それなのに。



