今だ、と。
先輩に背を向け、走り出す。
思いっきり、力いっぱいに。
これでもか、っていうくらいに足を動かす。
けど。簡単に捕えられてしまった。
「やっ…、」
掴まれた手首が強い力で引っぱられる。
崩れ落ちるように倒れると、ザザッと擦れる音が辺りに響いた。
反射的に、「いたっ」と漏れた声。
手首の痛みと、擦れた膝の熱が涙を誘う。
なんでこんな目に遭わなくちゃいけないの。
「逃げるからだろ。ほら、立てよ」
先輩が、あたしの手首を力任せに引っ張る。
それにつられるように、地面に座り込んでいたあたしの体が持ち上がろうとする。
けど、力なんて入るわけがない。
再びペタンと座り込むと、舌打ちをした先輩は、あたしを半ば引きずるようにして歩き出した。
「いや、だ……っ!や……っ」
なんてヤツだ。
サイテーな男。信じられない。
辺りはすっかり暗くなっていて、公園にはあたしたち以外、誰もいない。
「バカじゃないのっ!?どんだけサイテーな男だよっ!」
そうやって、大声で叫べたらいいのに。
「……っ、………て、…」
絞り出した声は掠れていて、自分でも情けないと思ったくらい。
これじゃあ、誰にも気づいてもらえない。



