ここは剣と魔法の世界、
レサン王国王都グラン・ベール郊外の原野……

数日前に、魔物オークの群れが出たと報告が入り……
討伐の為、王国騎士隊50名が騎馬で出撃した。

騎士隊が、騎馬で原野へ赴くと……
報告通り、人喰いオークの群れが出現した。
数は約100体。

騎士団長は、麾下の騎士達に突撃命令を下した。

「全員突撃! 奴らを一気に討ち取れ!」

「「「「「おおおおおおおおおっっ!!!」」」」」

(とき)の声を上げた騎士達は、馬を走らせる。

ドドドドドドドドド!!!

50の騎馬が全速で疾走する!

しかし!
あっという間に!
ひとりの騎士だけが抜きん出て、騎馬1頭が、オークの群れに突っ込んだ。

馬上の騎士は槍を振るい、オークどもをガンガン討ち取って行く……

「おお、さすがだぞ! 我が隊の無敵、無双のエース、ロゼール!」

騎士隊の隊長は感嘆し、大声で叫んだ。

抜きん出たこの騎士は……女傑(じょけつ)
そして無敵、無双のエースと(うた)われる、
ロゼール・ブランシュ、この物語の主人公である。

結局、この日、オークは全てが討伐され……
『エース』のロゼールはたったひとりで、
出現したオークの半分50体余を討ち取ったのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

騎士隊がオークを討伐してから、1週間後の休日……

と、ある広大な庭園付きの高級レストランを貸し切り……
『貴族同士のお見合い』が行われていた。

家族同士の会食が済み、周囲が気を利かせたのか、
当時者の女子と男子が、ふたりきりで庭園を散策していた。

改めて紹介しよう。
この女子が、オークを50体討伐したこの物語の主人公、
ブランシュ男爵家のひとり娘、
凛とした顔立ちをした栗毛の女子ロゼール、文武両道、才色兼備の20歳である。

そして見合い相手の男子は、いかにも貴族の息子といった、
おぼっちゃま風ボンボン、バスチエ男爵家の次男、エタン23歳。

……実は、ふたりは王国騎士。
更に同じ騎士隊の後輩、先輩である。

で、あれば、この見合いがもしも上手く行けば職場結婚……
という事になるのだが、ふたりにそんな雰囲気は全くない。

互いに3m以上離れて歩き、視線も合わせず、ず~っとそっぽを向いていた。

エタンが視線を合わさないまま、話しかける。

「おい、ロゼール」

対して、ロゼールもそっぽを向いたまま、言葉を戻す。

「なあに、先輩」

「なあに、ではない。何でひと言もしゃべらないんだ?」

「先輩だって同じですよ」

「何だと! 君のお父上から、どうしても、と我が父が頼まれて、やむなく今日のこの場をセッティングしたのだぞ」

「みたいですね」

「ふん! 少しは、分かっているみたいだな! で、あれば! もう少し愛想良くしたらどうなのだ? 見合いに(のぞ)む女子の態度とは到底思えんぞ」

「うふふふふ」

「な、何が可笑(おか)しい?」

「だって、お互い様……じゃないですか? この状態」

確かにロゼールの言う通りである。
互いに離れて、そっぽを向いているのだから。

しかし!
エタンはとんでもない理屈を振りかざす。

「な、何だと! 何がお互い様だ! 男は度胸(どきょう)、女は愛敬(あいきょう)というだろうが!」

対して、ロゼールは苦笑し、首を横へ振る。

「あはは、今時そんな言葉は死語です。流行(はや)りませんって。先輩が不機嫌なのは、ちゃんと理由があるからでしょ?」

ロゼールの突っ込みに対し、エタンは言葉が出ず口ごもる。

「う!」

「うふふ、反論出来ないのはよっく分かりますよ! 私と先輩との試合は、練習公式含め、馬上槍試合(ジョスト)が私の30勝0敗。剣の試合も私の60勝0敗。格闘試合がこれまた私の80勝0敗。その他もろもろも、私の全勝ですからね」

何と! ロゼールは全ての武技の試合に関し、エタンに圧勝していた。

ロゼールの話は事実に違いない。
相変わらず、エタンは言葉がなく、唸るのみだから。

「むむむむ~!!」

「それと私、騎士隊内で、たくさんの人から聞きましたよ」

「何をだ? 何を聞いた?」

「先輩って、私が居ない時、いつも言っているそうですね。ロゼール・ブランシュは強すぎる。無表情で魔物を倒し、先輩にも同輩にも後輩にも容赦なく勝ちまくる。 男勝りで可愛げが全然ないって」

エタンは、負けた腹いせに職場でロゼールの陰口まで言っていた。
こそこそ陰口を言うなど騎士の風上にもおけない。
普通は恥じ入るものである。

しかし、エタンは何と! 開き直った。

「なに~! 全て事実だろうがあ!」

「じゃあ、先輩。言っている事は認めるのですね?」

「あ、ああ、認める! 確かに言っているよ!」

「そういう陰口は一切やめて、私へ直接、はっきりと言ってください。私ロゼールは、先輩よりも遥かに強い。加えて可愛げがない女子だって」

「ああ、言ってやる! ロゼール! お前は強すぎる。誰にも遠慮なしで勝ちやがって、全く可愛げがない女子だ!」 

「うふふ、私は『褒め言葉だ』と、とっておきますよ。でも、そんな女子と結婚するのは、男の誇りが許さない。でしょ? 先輩は」

「ぬおおっ!」

「でもね。私だって、かよわいお前をがっつり守ってやる! と言って貰えるくらい、強い男子を夫君にしたいのですよっ!」

ガンガンやり込められ……
遂に、エタンは支えきれず、『敗走』する。

「う、うるさいっ! だ、黙れ!」

「あははっ! 黙れなんて、反論出来ず、完全に思考停止しましたか?」

「くううっ!!」

「でもそちらへ頼み込んで、このお見合いをセッティングしたくれた父の顔を立て、私も譲歩致しましょう」

「な、何、譲歩だと?」

「はあい! 譲歩でぇす」

「な、何だ! 条件でもあるのか! 言ってみろ!」

「はあい! もしも! もしもですよ! 馬上槍試合(ジョスト)か、剣の模擬試合で一回でも私に勝ったら、せめて先輩との『お付き合いだけ』、検討しても構わないですよぉ」

もしも私に一回でも勝ったら、
せめて先輩との『お付き合いだけ』、検討しても構わない……

ロゼールの挑発的な物言い。
「はっきり言って、あんたみたいな、こそこそ陰口を叩くような相手とは絶対に結婚したくないわ!」
というロゼールの『意思表示』である。

それが分かったのか、分からないのか、エタンはぶち切れる。

「くわっ! 上から目線で言いやがって! 馬鹿にするな! これ以上、こんな不毛なイベントをやっていられるか! 茶番は終わりだ! 俺は帰るぞっ!」

「ああ、良かったあ! 父が無理やり、そちらの家へ、お願いしてセッティングしたお見合いなので、私の方からは『終わり』って言えないですからあ!」

「………………」

「じゃあ、これでお開きですねえ! 先輩! さようならあ!!」

「………………」

ロゼールが手をひらひらし、別れの言葉を告げる中……
エタンは返事もせず、背を向け、足早に去っていったのである。

当然、お見合いは成立せず、どころか……
見事にというか、両家は『決裂』したのであった。