「おはよ~。自己紹介のプリント、ちゃんと書けた?」
次の日、まだ眠そうな目をした楓が片手にプリントを持ちながらこっちに来た。
「書けたよ~。発表、緊張するね~!」楓にプリントを見せると「へ~。」と言いながら、まじまじと見つめている。
「楓は?プリント書けたの?」引き出しの中を整理しながら尋ねると、楓もプリントを見せてくれた。佳織も楓と同じように「へ~。」と言いながらプリントを見ていると、ちょうどチャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。
「それじゃあ、昨日言った通り自己紹介をしてもらうぞ~。出席番号と一番と四十番がじゃんけんをして負けた方から発表してもらう。」
緊張の数秒間が過ぎ、結果は後半から始めることになった。
佳織は三十番なのですぐに順番がきた。
「吉田佳織です。一年間、よろしくお願いします。」なんとか発表を終え、ホッと
息をはきながら椅子に腰を下ろした。その後も発表は順調に進み楓の番になった。
楓は緊張しているのか椅子に引っ掛かり少しよろけてしまった。心配になり、握り占めた手に思わず力が入る。しかし、少し左に視線を動かした瞬間そこから目が離せなくなった。楓の一つ後ろの席に座る男子を見た瞬間、胸が苦しくなりドキッという音が聞こえた気がした。慌てて周りを見回すが佳織の他には聞こえなかったのか皆、楓の方を見ていた。佳織が楓に目を向けたときには既に発表を終え、椅子に座ろうとしていた。
今度は、楓の後ろの席に座る例の男子が椅子を引き、スッと立ち上がったので急いでそちらに視線を向ける。
「白里爽です。まあ、一年間よろしく。」
発表が終わり、白里爽が席に座ってもその横顔から目を離せずにいた。すると、そんな視線を感じたのか彼の顔がゆっくりとこちらを向き、視線が合った。
その瞬間、今まで経験したことのない速さで心臓がドクドクと鳴り、また胸が苦しくなった。自分でも、なぜそんなことが起きるのか訳が分からず授業が終わるまでずっと下を向いていた。

「ねえ、佳織。大丈夫?」
十分休憩が始まってすぐ楓がこっちに来て心配そうに顔を覗き込んだ。
「えっ?な、何が?」
「いや、なんか調子が悪そうに見えたから。」
「そんなことないよ!」
慌てて手を振り「そう?」とまだ不安げな表情を浮かべる楓を安心させるため
笑顔で何度もうなずいた。実質、先ほどまで感じていた苦しみはすっかりなくなっていた。