教授のもとを辞し、大学を後にした私たちは都心に戻った。


「マーティ、忙しいのに、私の為にすっかり時間を取らせちゃったね。」


ターミナル駅は、そろそろ帰宅の途に就くサラリーマンや学生たちで賑わい始めていた。


これから私は、電車を乗り継ぎ、故郷の実家に、マーティは昨日泊まったホテルに戻る。


「とんでもない。ただ今日もディナーを共に出来ないのが残念だ。」


「ゴメンね。」


「ご両親が大切な娘の帰りを首を長くして待ってるんだから仕方がない。次の機会にしよう。」


そう言ったマーティは


「じゃあ、また連絡する。会えるのを楽しみにしてるよ、ハニー。」


私にウインクと投げキッス。


「バカ。」


と笑いながら答えた私をひとハグして、おでこにキスを落としたマーティは手を上げて去って行く。


その彼の後ろ姿を、見えなくなるまで見送った私は、プラットフォームに足を運び、やがて列車の人となった。


夜も華やかな都心を離れ、車窓から見える景色からは、徐々に灯りが消えて行く。


その様子を私はじっと眺めている。


(2年ぶり、か・・・。)


衝動的に、とも言ってもいい、あの旅立ちから、そんなに時間が経ったのか。改めて、思うとなにか信じられない。


懐かしい故郷には、懐かしい人たちがいる。両親を始め、会いたい人が大勢いるが、思い浮かべると、昨日のように胸がギュッと締め付けられる顔もある。


全てを振り切ろうと故郷を飛び出したのに、やっばり振り切れない自分がいることに改めて気がついてしまう。


(未練がましいな、私・・・。)


退路を断ったつもりだったのに、もう引き返しようもないはずなのに・・・。


そんな詮無いことを考えていた私の中に、また1つの顔が浮かんで来る。


いや。今、急にじゃない。昨日から、その顔は何度もふいに浮かんで来る。


(なんで、昨日はアイツはあの場所にいたんだろう?そして、なんで何も言わずに消えてしまったんだろう・・・?)


という思いと共に。