「『アイツの、京香の帰れる場所なら、俺が用意するから。』お前、確かにあの時、ここで俺にそう言ったよな?」


「言った、確かに言った。カッコつけたこと言って、後悔してるよ。」


「後悔だと?」


俺の言葉に、目を怒らせる尚輝を


「いや、ああでも言わなきゃ、お前を抑えることができなかったし、それにさ、あの時、俺はこうも言ったはずだぞ。『アイツに頼まれたわけでもないし、もちろん約束もしてない。だから帰って来た時に、それをアイツがどう受け止めるか、それはアイツに決めてもらえばいいことだ。』って。」


なだめるように、俺は言う。


「そして、アイツはあんなイケメンのカッコいい彼氏を連れて来た。お前は見たことないから、わかんねぇだろうけど、俺はもちろん、お前だって勝てそうもないくらいのだぞ。それにだ、京香がそんな見てくれだけで、男を判断する軽い女じゃないってことは尚輝、お前の方がよっぽどわかってるだろう。」


更に続けた俺の言葉に、一瞬息を呑んだような仕種を見せた尚輝は、またキッと睨むような視線を俺に送って来た。


「秀、お前があの時、俺に語った思いは、そんな軽いものだったのか?」


「えっ?」


「だとしたら、お前を信じた俺がバカだったな。」


そう言って、フッと息をついた尚輝。


「いやスマン、今のは取り消す。俺が偉そうなこと言えた義理じゃない。所詮俺はお前に、お前のあの時の言葉に甘えて、京香に対する罪悪感から逃げて来ただけなんだ。」


そう言って、俺を見た尚輝は


「この言葉は俺が口にする資格もないし、口にするのはずるいとも思ってる。だけど・・・俺は京香が愛しい。あの子にはどうしても、絶対に幸せになって欲しいんだ。」


やや躊躇いながら、しかしその思いを吐露する。


「京香が幸せになれるなら、相手が蒼い目の男だろうと、誰だろうと本当は構わない。だけど・・・これは俺の我が儘、自己満足に過ぎないが、俺はあの時のお前の言葉を信じたい。長い時間を京香と過ごしたお前が、これからずっと彼女の側に居る。そんな素敵なことになれば最高だと思う。」


「尚輝・・・。」


「さっき、自分でも言ってた通り、あの時、お前はこう言った。『自分の思いをどう受け止めるか、それは京香に決めてもらえばいい』って。だからその通りにして欲しい。このまま京香がお前の思いに気が付かないまま、全てが終わってしまって、それでいいのか?悔しくないのかよ?」


最初の勢いから一転、諭すような尚輝の言葉が、心にしみた。