ランウェイのシンデレラ

驚いて扉の方を見れば、そこには体育の先生らしきジャージを着た男の人が、息を切らしながら立っていた。
様子を見るに、おそらく七海先輩を探していたのだろう。
七海先輩はというと、なぜか顔面蒼白になりながらうろたえている。

そう言えば先輩は私に話しかける前、誰かに追われているように見えた。
もしかしてそれは“かくれんぼ”をしていたのではなく、この先生から逃げていたのではないだろうか。
けれどこんな女神のような美少女が、どうして先生に追いかけられるという事態になるのだろう。
疑問に思いつつ先輩を見ると、彼女は苦笑いを浮かべながら、降参とでも言うように両手を挙げていた。
しかしそれだけでは先生の怒りは収まらないようで、彼はつかつかと私たちの元へやってくる。

「部活に入ってないお前が、登校日でもないのにどうして学校に来ているんだ?」

「え、えーと……ちょっと新入生の様子を見に……」

「また何か悪さでも企んでいたんだろう?」

「悪さじゃねーよ! 失礼な! あんたみたいな脳みそ筋肉野郎には分かんねー話だ!」

「なんだとぉ!? もう一度言ってみろ、もう一度!」

言い合いをする二人の視界に、もはや私の姿は入っていないらしい。
目の前の交戦はさらに加速していき、私はただ呆然と彼らを眺めるしかなかった。
と、言うよりも。

「それよりきちんと自分の制服を着てきなさいといつも言っているだろう!」

「こっちの方が俺に似合うんだよ! あっ、そう言えば先生、これどうっすか? 今日のカーディガン、春の新作で」

「ああもう、女子の制服を着るならせめて正しく着なさい!」

なんだろう、何かがおかしい。
冷静になって聞いてみれば、二人の言葉の節々に気になる点がいくつもあるのが分かる。
“俺”って、“女子の制服”って、それではまるで七海先輩が……。

「後輩も入ってくるんだ。悪い影響を与えないように、明日は校則に沿った格好をしてくるんだぞ」

「はいはい、善処しまーす」

「まったく……」

置いてけぼりの私をよそに、一応話の決着はついたらしい。
部室を出ていく先生に手を振っている七海先輩の背中を見つめながら、私は「あの……」と小さく呼びかけてみた。

「……あー、やべ。さすがにバレちまったか」

ぎこちなく振り返った先輩は、少しだけ気まずそうな顔をしたものの、思い直したようににやりと表情を一変させた。
それを見て、頭の中に浮かんだ仮説が真実味を帯びていく。
嘘、まさか、そんな。

「ほら」

ほいと、この学校の生徒手帳を手渡される。
そこに貼りつけられていた証明写真に映るのは、黒髪ショートヘアの男子生徒だった。
ただし、目の前の美少女と同じ顔をした――。

「俺の名前は、七海創一郎(そういちろう)。性別は――」

「…………」

「――正真正銘、男です」

語尾にハートマークがつきそうなほど、かわいく告げられた真実。
目の前の“彼女”は、それはそれは楽しそうに笑った。

佐倉礼、15歳。
憂鬱に思っていたはずの日々が、すべて変わる予感がします。



「……ええええぇぇぇぇええええっ!!??」