(朔埜は優しいから、もし子供の時から知り合えていたら……) 自分に情を掛けてくれたかもしれないけれど。 その偶像の朔埜はもういない。 四ノ宮の本来の当主の朔埜に、仮初の当主である水葉が圧力を掛けようと。東郷が権力を振るい朔埜を追い詰めようと。彼は何にも囚われず逃げていくだろう。見つけてしまった自分だけの宝物だけを抱えて── 「……もう行くわ」 立ち上がる乃々夏に三芳がらしくもなく呆けたような顔で見上げてくる。 「もう、よろしいのですか?」 「そうね、気は済んだから」