「まだです、全然相手にされなくて……」

「そうか、実は、倉田は三年前、新入社員に付き合いを申し込まれたんだが、新入社員の中で賭けをしたらしく、騙された形になって、ショックから立ち直れず、半年間休職したんだ、だから、お前がそうだとは言わないが、出来れば倉田をそっとしておいてやってくれ」

「本郷部長、俺は賭けなんかしてませんし、静香に、いや静香先輩に対してはいい加減な気持ちじゃありません」

「わかってるよ、ただ、お前は将来、この会社を継いで社長になるんだろう、その時は決まった婚約者がいるんじゃないか、もし、また倉田に同じような思いをさせるなら、これ以上構わないでやってくれないか」

そんな過去が静香にあったなんて、全く知らなかった。

終業時間になり、俺は静香を食事に誘った。

「静香、駐車場に車を停めてあるから、帰る支度出来たら、駐車場に来て」

「ごめんなさい、ちょっと気分が悪いので、今日は帰ります」

「静香!」

静香と呼び止めた俺の声は届かなかった。