彼女と出逢ったのは、少し涼しくなってきた頃の夕暮れ時。死期の近い人間を探していたときだった。

 死神を認識するのは死期が近い人間によくある特徴だ。だから俺自身が死神だとわかるようにわざと鎌を手に持ち、寂れた横道への入り口で、大通りを行き交う人々に目を向けながら建物の壁に寄りかかっていた。

 ぎこちなく歩いていた子どもが俺の目の前で転んだ。途端大声で泣きだしたかと思えば、その子どもの親であろう人間が泣く子どもの頭を撫でる。すると、子どもは徐々に声を小さくし、やがて頬を流れていた涙は止まっていた。

 そんな光景を、首を傾げながら眺めていたとき、ふと視線を感じそちらに目をやる――と、彼女と目が合った。

 顔を丸く包むように肩まで伸びる黒髪は、風に靡き夕日に照らされ、透けるように茶色がかる。
 俺を真っ直ぐに見る髪と同じ色のどこか虚ろな目は僅かに潤んでいて、それが光を反射し輝いているように見えた。

 俺の目の前で歩みを止める彼女。確実に俺を認識していた。

 彼女は俺を見て、少しの間固まった。
 そして恐らく俺が死神だと頭で認識した瞬間、

 ――彼女は笑顔を浮かべた。


 まるで希望を見出したかのように、虚ろだった瞳に光を宿らせ、枯れた花が息を吹き返したかのように、笑顔を咲かせた。
 そして、声を弾ませて言った。


「わたしの命あげる!」


 俺を怖がることなく、それどころか笑顔すら浮かべ、その命を差し出してきた奴なんて初めてだった。


 しかし彼女に残された時間はまだ多く残されていた。時々死が迫っていなくとも死神が見える人間もいるから、その部類かと思ったが、それだけではないようだった。

 彼女の寿命は、この世の時間の流れに逆らい、増減を繰り返していた。突然2日減ったかと思えば1日増え、さらに半日増えたかと思えば1日減る。そこに決まった法則はなく、彼女の寿命はあまりに不明確で不安定であった。

 変わった人間がいるんだなとしか思わなかったものの、その変化と笑顔、そして彼女の言葉が、未だに印象深く残っている。