自分の部屋に帰ってきたわたしは、脱いだ帽子を勉強机の上に置き、ベッドに飛び込み愛用しているクマのぬいぐるみを抱きしめる。
 そのまま仰向けになると見慣れた天井が目に入った。
 ようやくそこで、今自分が見ているのは夢や幻想ではなく、現実であると認識する。
 しかし今まで見て体験していたのが、同じ現実なのかが曖昧だった。

 死神と出逢い、契約し、魔法を見た。自身が知っている現実世界の日常からはかけ離れすぎていて、実感が湧かない。
 けれど、彼の胸の中で子どものように泣きじゃくったときの彼の温もりも、頭をぎこちなく撫でていた彼の手の感触も、未だ残っていた。

 実際、机の引き出しからだした鏡に映る自分の目は赤く腫れているし、彼がわたしを気遣って雑に被せてきた帽子もちゃんと机の上にある。

 徐に帽子を手に取り、1日の出来事を思い返しながら彼の姿を思い浮かべた――。

 ネイビーのチェスターコートの裾を翻しながら、黒のスキニージーンズを纏った長い脚で颯爽と歩く人間の姿をした死神。
 ワインレッドのパーカーが彼の色白肌を引き立たせ、そしてその肌に色を添える薄い唇に視線を惹きこむ。
 少し癖のある真っ黒な髪は、後髪は短いものの前髪は目に少しかかるほどの長さ。
 それは吸い込まれそうなほどの黒い瞳に視線を集めさせた。
 その瞳を飾る綺麗な二重と長い睫毛は女性からしても羨ましいものだった。

 誰もがすれ違いざまに横目で彼を見、そしてすれ違った後思わずまた二度見する。
 そんな彼の横を歩くのは居たたまれなさがあったものの、その現実離れした整った顔立ちは人間ではないから、という理由をつけ、わたしは落ち着きを保っていた。

 しかしやはり心穏やかではいられない。
 あの時口ではおどけてみせたものの、涙で崩れてしまったであろうメイクと泣き腫らした目をした自分の顔が横に並んでいると思うと、ひたすら何かで顔を覆いたくなる衝動に駆られていた。
 お目汚しも甚だしい。