少年の名前は大田岬くんというらしい。


話を聞く前の自己紹介で知った。


「海の中から丸いお化けが出てきて、僕のサンダルを取って行ったんだ!」


岬くんがお化けを見たのは砂浜からだったらしい。


けれど海を眺めて見てもそんなお化けがいる様子はない。


「幽霊船を見たんじゃなくて?」


「幽霊船ってなに?」


首をかしげてきかれて香織は「なんでもない」と、答えた。


昨日読んだ幽霊船の話をつい思い出してしまったのだ。


「でも、丸いお化けってなんだろうね?」


それがわからないから怯えているのだと、岬くんは香織を見上げた。


声をかけてくれた優しいお姉さんがすべてを解決してくれると思っていた岬くんは不服そうな表情を浮かべている。