ひまわりが枯れるとき、ライオンは…

『お兄ちゃんに、突然言われたんだ。生徒ができたから、私に勉強を教えられる時間が減るってー。』

「…。」

『それから、お兄ちゃんはよく獅子谷くんの話をするようになったの。家族でご飯食べる時も、獅子谷くんの話ばっかり。』

「…。」

『そのときに名前も聞いたし、ライオンみたいな見た目の子とも聞いてたから……はじめて駅で見かけたとき、すぐ獅子谷くんだってわかったの。』

「…なんで。」

『…え?』

「…なんでそこまで知ってて、俺のこと責めなかったの?」 

『お兄ちゃんが死んだのは事故で、獅子谷くんのせいじゃないー。』

「ちがう、俺の不注意だ。それに、俺は謝りにいかなかった。高野さんに、ご両親にー。」

『しょうがないよ。獅子谷くんも怪我してたんだから。』

「謝りにいける時間はいっぱいあった。でも…逃げたんだよ…俺は。」

『…それは違うよ。』

「違くない!」

『違う!!』

「…。」

『逃げたなんて思ってない。私も、お母さんも、お父さんも、獅子谷くんに謝って欲しいなんて思ってないよ。』

「…なんで…だって…優真くんは俺を庇ってー。」

『そうだよ。お兄ちゃんは獅子谷くんを庇った。でも、本当だったらそんなことしなくてよかった。獅子谷くん、ちゃんと交通ルール守ってたんだもん。』

「…。」

『…もともとさ、あのドライバーさんが飲酒運転なんかしなければ事故なんか起きなかったんだよ。悪いのはドライバーさん、みんなわかってる。』

「…でも。」

『…獅子谷くんに近づいたキッカケはお兄ちゃんだよ。自分の病気のこともあったし、自殺しようとするの見てムカついたのは事実。でも、獅子谷くんのことお兄ちゃんを殺した人だなんて思ったこと1度もない。』

「…高野さんがそう言ってくれても…俺は…。」

『…獅子谷くん、私との約束覚えてる?』

「…え。」

『私が死ぬまでは絶対に死なないこと。この入院期間中はノートを届けること。』

「…それは、ちゃんと守ってる。」

『守ってない。』

「…え、でも…手渡しだなんて、1度もー。」

『じゃあ、今後は手渡しで!約束!』

「…。」

『約束は絶対守って。私が獅子谷くんにしてほしいことは、この約束を守ってもらうことだよ。』

「…わかりました。」

『よし!ノートありがとう。明日もよろしくお願いします。じゃあね。』

「…うん。」

俺は、不完全燃焼のまま帰宅した。