魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

『んー、たぶんそれくらいだったはず。あー、まぁ、長い間だ、そう、長い間』
 指を折り曲げて数えているようなそぶりと、言いよどむ言葉。うん、まったくあてにならない数字だということは伝わった。
『そ、それより、君はどうしてそんなところで寝ているんだい』
 ごまかすように話題を変えたな。幽霊といっても、人間とかわらないね。恨みつらみでおかしくなってるタイプではないようだ。
「……寝てるんじゃなくて、倒れてるんです」
『倒れてる?なんで?そんなとこで倒れてたら、死ぬぞ!』
 ああやっぱり死ぬのか。
『全く動けないのか?』
「んー、立って歩くのは無理そう」
『這いずり回ることは?』
 這いずり回るか。貞子みたいに?
 いや、うつ伏せになるのもつらいなー。体の体制を変えられる気がしない。
『少しだけ、少しだけこっちに近づいてくることはできないか?』
 寂しいのかな。どうせ死ぬなら隣人が近くにいたほうがいいかも?
 ちょっとだけ頑張ってみようか。
「った!」
 言葉にならない痛みが体に走る。だけれど、何とか体を仰向けにすることができた。それから、ぐっとこらえて本当に少しずつ、匍匐前進よりもひどいナメクジみたいな動きでじりじりと声の主の方に向かって進む。
『ああ、俺が動ければ……だけど、よかった。来てくれてよかった』
 10mほど進んだろうか。先ほどよりも声の主までの距離が縮んだ。
『たぶんその辺、右手をもうちょっと西側に動かして、あ、西が分からないか、えーっと、そっち、そうそう、そっち、その辺ちょっと土を掘ってみて』
 ぐ、全身痛みがひどくて、死にそうになってるのに、頼み事かよっ!まぁいい。気がまぎれる。考えたくないことを考えなくて済む。
「ん、なんか手に当たった」
『よかったー。そこらへんに落とした記憶は間違ってなかった。それ、飲んで』
 は?
 手に当たったものを手の感覚だけで掘り出すと、小さな瓶が出てきた。中には液体が入っている。確かに、喉が渇いてきたし、飲み物はほしい。
「これ、えーっと、三百年前の?」
『そう。三百年前の僕の持ち物。この辺に散らばっちゃったやつのうちの一つ。それとっておき』
 とっておきって。大事なやつ。美味しいのかな。瓶は砂まみれ。中の液体の色は……真っ黒。醤油よりも黒い。ソースよりも黒い。墨汁みたい。
 これを飲めと?