魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

「ああ、なんだ。こっちの世界でも、私の能力は健在かぁ……」
 ふっと笑いが漏れる。
 目に移ったのは人ならざる者。いや、かつて人だったモノ。
「呼びましたかー」
 私、花村由紀30歳。昔は霊感少女と呼ばれた今は霊感喪女です。幽霊見えちゃう体質です。
 関わるとろくなことがないため、見ても完全に無視して生きてきたけれど。
『お?え?あ?』
 遠くに見える半透明の男がきょろきょろとあたりを見回す。
「ちょっとー、おーいって呼んでたの、あなたじゃないんですか?」
 たぶん、もうすぐ死ぬんだ。一人で死ぬよりも、幽霊といえど誰かがいたほうがマシなのかもと、会話することにした。
『え?いや、呼んだ、呼んだけど、聞こえるのか?』
 距離にして、20メートルくらいだろうか。ちょっと遠いので、姿はよく見えない。だけれど、声は張り上げなくても会話ができるみたいだ。ありがたい。今は大きな声を出すだけでも体が悲鳴を上げる。
「聞こえないと思って呼んだんですか?で、何の用ですか?」
『あ、いや、用というわけではなくて、人がいたら話しかけたくなるよね?』
 ……。いや、見ず知らずの人にいきなり話しかけたくはならないけど。
『まぁ、話しかけても、相手には聞こえないし僕の姿も見えないみたいだから、返事はかえって来ないんだけれど……。独り言でも、誰かに向けてしゃべっているというだけで、少しだけ寂しさが薄らぐというか……まぁそもそもこのあたりに人がいることなんてめったにはないんだけれど』
 ああ、そうか。
 今の私がそうだね。たとえ相手が幽霊だとしても、一人よりは寂しくない。
『あ、あれ?もう聞こえてない?』
 ずっと黙っていたら、悲しそうな声が聞こえてきた。
 寂しいと言いつつ、近づいてこないのは地縛霊だからかな。……あそこで死んだ?あの人も、捨てられたんだろうか。私と同じように。
「どれくらいそこにいるんですか?」
 私も死んだら、ここで地縛霊になっちゃうかもしれない。そうすると、死んだあとあの人が唯一の隣人になる可能性もある。
『あ、ああ、えーっと、かれこれ、2、3………百年?』
 ぶほっ。300年も成仏できずに……。あ、きっかけがなければ成仏も出来ないのか。こんな何もない荒野できっかけを得るのは難しいか。人っ子一人見当たらないし。
「さ、三百年?」