魔力という単語が出てきたし、召喚も体験した。当然魔法があるだろうというのは想像できたけれど、実際に魔法を目にするとある種の興奮が沸き上がる。
 魔法だ、魔法、すごい!
 男が呆れた表情で私を見下ろした。
 あれ?魔法じゃない?板でできた隙間の狭いすのこみたいな感じに見えるだけの物だけど、実はリニアモーターカーみたいに磁石の力で浮かんでる最新機器?
「くっ。低級民は、俺が使うような下級魔法すらうらやましいか。そりゃそうか、魔力ゼロだもんな、ゼロ。ありえねぇわ。俺なら恥ずかしくてその年まで生きてられねぇな」
 馬鹿にしたような目で見てくる。
 下級魔法って言った?やっぱり魔法なんだ。空飛ぶ絨毯ならぬ、空飛ぶすのこ!すごいよ、1mくらいしか浮いてないから、空を飛ぶと言えるかは微妙だけど。
 と、つい本物の魔法に興奮してしまったけれど、そんな場合ではない。
 すのこの上に座りなおすと、周りを見渡す。目から入る情報は大切だ。
 振り返れば召喚された場所である城が高くそびえている。陛下のいる城ということは王国の中心王都なのだろう。

 街には、石造りの2階建ての建物が並ぶ。武骨な石ではない。表面が磨かれた石だ。大理石を思わせる美しい石で作られた高そうな家。
 色とりどりのワンピースを身に着けた女性たち。働くには動きにくそうなフリルが袖口についていたり、ふわふわと風に揺れる長い髪には花の飾りをつけていたりと、豊かさが見て取れる。男性たちもあくせくと働いているようには見えない。汚れがなく形がしっかりした服を身に着け、あるものは女性に声をかけながら、またある者は友人と酒を酌み交わしながら過ごしている。
 全体的に「剣と魔法の中世ヨーロッパ風ゲームの世界」のように見える。
 城から離れていくにしたがって、街の様子も変わる。次第に労働階級の住む場所へと向かうのはどこの世界も同じようなものなのか。その外側はスラムと呼ばれる場所だろうか。スラムに私は捨てられるのかな。
 と、ぼんやりと考える。
 しかし、予想は裏切られた。街の端へ向かうと、より高級な住宅と思われるものが立ち並ぶ場所だ。2階建ての建物などという表現ではない、お屋敷という呼び方がふさわしい建物が姿を現す。広い庭には花々が咲き乱れ美しく整えられている。
 さらに外側に向かうと、今度は畑が現れた。
 整然と並ぶ作物。