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「姉ちゃん、それ面白いの?」
 ふぁうっ!
 リビングのソファで本を読んでいたら、弟に声をかけられました。
 シャキーンと背筋を伸ばして座りなおします。
 だって、だって、だって、弟の和樹から話しかけられるなんて、半年ぶりなんですよっ!
 かわいいかわいい和樹。
 反抗期真っ盛りに入り、半年も口をきいてくれなかった和樹が……。
 和樹が話かけてくれたぁぁぁーーーっ!
 この喜びを、誰に伝えればいいの?
 親友のゆきちゃんにライン送る?確実に「ブラコン」って返事が返ってくることはわかってる。
 わかってるけど、このあふれる思いを誰かに伝えたいんだってばぁ!
「異世界転生……、借りていい?」
 おっと、いけない。
 せっかく和樹から話しかけてもらったというのに、嬉しさのあまり返事もしないままでした。
「もちろんいいよ。ほかにも読みたい本があったらいくらでも貸すよ?その本は異世界に転生した日本人が日本の料理を作って異世界に革命を起こす話だよ」
 この半年の間に和樹はずいぶん大人っぽくなった。反抗期を通り過ぎたからだろうか。
 そもそも、漫画は読むが小説なんて読まなかった和樹が、小説を読みたいだなんて!
「異世界転生って、さ、……」
「ん?何?異世界転生物の本が読みたいの?異世界転移もあるよ。悪役令嬢に転生っていうのはさすがに興味ないよね?スライムに転生する話や自動販売機に転生する話や、えっと土に転生する話も。あと剣とか、どういうのがいいかな?」
 和樹の目が小さくなる。
 あれ?
 何、その目つき。
 やだ、やめて、お姉ちゃん何言ってんだみたいな目で見ないで。
 せっかく和樹が話しかけてくれたのに、なんか、私、間違ったこと言った?
「スライムに転生ねぇ……そういうの読むと、その辺を飛んでる蠅も誰かが転生したものだと思えない?」
「え?何それ?」
 ちょうどいいタイミングで、バエがブーンと飛んできた。
 いつもならすぐに殺虫剤に手を伸ばすんだけど……。
「ハエ転生……。異世界勇者の俺が日本のハエに転生した……」
 思い浮かんだことを口にする。
 もしかして、そんなことあるの?あったら……。
 私、異世界の勇者を殺虫剤で無残に殺してたってこと?
 ブシューッ。
「あ!か、和樹、勇者様が!勇者様が!」
 和樹が殺虫剤を手にハエに噴射していた。