「うん。いい意味でびっくりした。でも何よりよかったのは、その子が自分で何とか稼いでやっていこうっていう気持ちが強かったところなんだ。お給料日前にお金がなくなったから似顔絵で稼ごうなんて…すごいサバイバル能力じゃない」
「そんなこと考えてたの」
 思わず口元を緩めてしまう。
「うん。金銭的にいくらでも僕がフォローできたのに、それを求めなかったし。それに一緒にいたら、すごく優しい女の子だった。人の痛みがわかる人だとわかった。料理も上手だし、結婚するなら、この人だって思ったよ」
「ありが、とう」
 てれくささもあって、目を伏せて夏美は言った。
「あのね。隆さんには、ありがとうってたくさん言いたいんだけど…一番、感謝をあらわせるのって何だろう、って考えたの。そしたら、これしか、ないな、って…」
 夏美は机に置いたままになっていたスケッチブックを持って来た。
「これ。今の私には、こんなことしかできないんだけど…」
 隆は受け取ると、スケッチブックを開いた。
「これ…ひょっとして、僕?」
「そうだよ。隆さんの似顔絵だよ」
 夏美が徹夜して必死で描いたのは、隆の似顔絵だった。ハーブティーを探していたら、似顔絵用のスケッチブックが出てきて、ひらめいたのだ。隆を喜ばせることで、夏美ができること。これだ、と思った。
「僕、こんなに男前なんだ」
「私には、そう見えるってこと」
「何、なんか含みを感じるんだけど?!」
 夏美は笑って、隆の胸の中に飛び込んだ。頬をすりあわせて、小鳥のするようなキスをする。
「夏美ちゃん。今度の週末、父のとこに行こう。これが僕の婚約者です、って早く見せたいんだ」
「うん…私の、両親にも、会ってね」
 緊張するなあ、と呟く隆の鼻に、夏美の鼻を合わせて、くすくすと笑いあう。

「まあ。あの肉まんの女の子が、隆の結婚相手になるとはねえ」
 今日は、隆の祖母の蝶子さんの家へ隆と来ていた。蝶子さんは、自分が隆と夏美が出会うきっかけを作ったことを昨日のことのように覚えていてくれた。
その蝶子さんは、半年ほど前に、隆の叔母のいるフロリダに移り住んでいた。隆の話だと居心地がいいから永住するかも、とのことだった。だが気まぐれな蝶子さんは、どうしても日本でお雑煮が食べたくなったとかで、急遽こっちに戻ってきたのだった。