キャンプ場にあるN市の郊外までは車で二時間くらいだった。夏美は運転免許を持っていないので、運転は敏恵に任せた。敏恵はドライブ好きらしく、運転しながら喋るのはお手の物のようだった。
 今日もまた、濱見崎トークに花が咲く。一時間くらい濱見崎の話をしたところで、夏美は敏恵にきいてみたかったことをきいた。
「そういえば、トシさんの恋が隆さんのせいでうまくいかなかったって…何か、あったんですか?」
 ああ、それ、と敏恵は前を向いたまま答えた。
「まあ、単純な話よ。私のことを好きになってくれる男って粘着質が多くて。私がいくら隆は弟みたいなものなんだ、って言っても通じないのよねえ。俺以外の男の部屋に行くなって必ず言われたな。同じ日本人なのにね。日本語が通じないのよね。不思議ねえ」
 夏美は相槌が打てなかった。敏恵の彼氏の気持もわかるな、と思ってしまった。普通は異性の部屋でご飯を作るのは彼女だけなんですよ…と、言いたい。しかしそれを敏恵に理解させるのは難しそうなので、黙っていた。
「隆もね、そう言えばあれでわりと」
 敏恵がそう言ったので、「あれでわりと甘えん坊よね」と、続くと夏美はふんでいた。
「…まあ、いいか。この話は」
「えっ。なんでですか」
 敏恵がいつものようにぺらぺら喋るのを期待していたので、少し驚いた。
「うーん、隆からいつか聞くと思うんだけど。隆も入れ込むと周りが見えなくなるとこがあって。昔の彼女に貢いでたことがあったわ」
「そうなんですか…」
 夏美も隆にたくさんおごってもらっていたので、ドキリとする。
「あ、夏美さんにしてあげたプレゼントとかとはまた違うから安心して。そういうことじゃなくて、慈善団体に多額の寄付をさせられたりね。色々あったみたいよ」
「寄付…」
 夏美は考えた。隆が寄付を請われたとすると、確かに大きな金額を要求されそうだ。
「だからさ、夏美さんと結婚する、っていう時は心配したのはその辺りよね。そしたら、隆は『今度の子はしっかりしてるから大丈夫』ってにこにこしてたわ」
「はあ…」
「ちくしょーラブラブでいいわね。もうすぐ着くわよ。待っててね、マイダーリン!」