隆の部屋に来たら、このタオルに顔を埋める、というのが楽しみの一つになった。熱のある体だったが、ふわふわタオルを感じていると夏美は眠けが襲ってきた。
「隆さん…少し、眠っていい?」
隆は、ふっと口元を緩めた。
「ゆっくり、お休み」
翌日、いよいよ絵本の発売日がやってきた。有休を使ってもよかったのだが、昨日の夜に熱が下がった夏美は、予定していたシフト通り、バイトに入っていた。絵本の売れ行きを気にして休むこともちらりと考えた。だが書店にはりついて今か今かと絵本を買う客を待つのもなあ、と思い、平常どおりバイトすることにした。
後一時間で、休憩という十一時前に、遅番のあずさがやってきた。
「沢渡さん。ねえ、言ってた絵本、本屋さんになかったよ」
「え、そうなの?」
一度お茶をしてからというもの、夏美はあずさとよく喋るようになった。イラストの仕事が忙しくなってきたので、思い切って自分はイラストレーターの仕事をしていて、絵本も発売になる、と打明けたのだった。あずさはとても感心してくれて、絵本、絶対買うね!と約束してくれていたのだ。
しかし、肝心の絵本が、書店にない…?
「おかしいな、発売日がずれちゃったのかな」
首を傾げる夏美にあずさが言う。
「楽しみにしてたんだけどね。寄った本屋さんが小さかったからかも。駅ビルの大きな本屋さんに帰り、行ってみるね」
「ありがとう。そんなに探してくれて、申し訳ないくらい。今度コーヒーおごるね」
「おっ、嬉しい。そうね、未来の大作家先生に、今のうちにゴチになっとくかな」
あずさと笑いあってはみたものの、夏美は心配になってきた。何かよくないことが発生して、発売日が延期になっていたらどうしよう。隆の仕事を見ていると、出版物が発売日に出なかったり、延期になることはままあった。その度に対応に追われる隆は大変そうだった。デザインや印刷の事情など、理由は様々なのだが、出版物刊行はすごくデリケートなものなのだ、と夏美にもわかってきていた。
休憩時間に夏美は隆にラインしてみた。絵本に関する情報は、隆にきくのが早いだろう。今、話せる?とラインすると、隆から着信があった。
「夏美ちゃん。今、休憩時間だよね」
「そうなの。あのね、バイト先の人が絵本を探してくれたんだけど、『ICHIGO』ないみたい。なんか問題でもあった?」
「…夏美ちゃん」
「隆さん…少し、眠っていい?」
隆は、ふっと口元を緩めた。
「ゆっくり、お休み」
翌日、いよいよ絵本の発売日がやってきた。有休を使ってもよかったのだが、昨日の夜に熱が下がった夏美は、予定していたシフト通り、バイトに入っていた。絵本の売れ行きを気にして休むこともちらりと考えた。だが書店にはりついて今か今かと絵本を買う客を待つのもなあ、と思い、平常どおりバイトすることにした。
後一時間で、休憩という十一時前に、遅番のあずさがやってきた。
「沢渡さん。ねえ、言ってた絵本、本屋さんになかったよ」
「え、そうなの?」
一度お茶をしてからというもの、夏美はあずさとよく喋るようになった。イラストの仕事が忙しくなってきたので、思い切って自分はイラストレーターの仕事をしていて、絵本も発売になる、と打明けたのだった。あずさはとても感心してくれて、絵本、絶対買うね!と約束してくれていたのだ。
しかし、肝心の絵本が、書店にない…?
「おかしいな、発売日がずれちゃったのかな」
首を傾げる夏美にあずさが言う。
「楽しみにしてたんだけどね。寄った本屋さんが小さかったからかも。駅ビルの大きな本屋さんに帰り、行ってみるね」
「ありがとう。そんなに探してくれて、申し訳ないくらい。今度コーヒーおごるね」
「おっ、嬉しい。そうね、未来の大作家先生に、今のうちにゴチになっとくかな」
あずさと笑いあってはみたものの、夏美は心配になってきた。何かよくないことが発生して、発売日が延期になっていたらどうしよう。隆の仕事を見ていると、出版物が発売日に出なかったり、延期になることはままあった。その度に対応に追われる隆は大変そうだった。デザインや印刷の事情など、理由は様々なのだが、出版物刊行はすごくデリケートなものなのだ、と夏美にもわかってきていた。
休憩時間に夏美は隆にラインしてみた。絵本に関する情報は、隆にきくのが早いだろう。今、話せる?とラインすると、隆から着信があった。
「夏美ちゃん。今、休憩時間だよね」
「そうなの。あのね、バイト先の人が絵本を探してくれたんだけど、『ICHIGO』ないみたい。なんか問題でもあった?」
「…夏美ちゃん」



