御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~

「そうですね。僕も、ミステリーだけじゃつまらないと考えるようになってしまって。それで思いついたのが絵本の制作だったんです。絵本って短いでしょう。その中にどれだけメッセージを詰め込めるか、そういうことがやってみたくなったんです」
「そうでしたか。さすが濱見崎先生、意欲的ですね。以前、先生が原作を書いた映画で主演した牧原さんも、早く読みたいって随分言ってましたよ」
「ああ、彼女は僕の本をよく読んでくれてるみたいだから。ありがたいですね」
 テレビからそんな会話が聞こえてくるのを、夏美はとろんとした目で見ていた。
「夏美ちゃん、レモネード作ってきたよ。あ、濱見崎先生、また出てる」
 マグカップを二つ手にして隆が言った。
「え。濱見崎先生、これが始めてじゃないの」
「うん。深夜の枠にも出てたし、朝の情報番組でも見たなあ。こういうの、先生、以前は苦手だって言ってたけど。今回は、積極的にやってるみたいだね」
 ソファに横になっている夏美の隣に、隆が腰かける。夏美はなんとか起き上がって、隆からレモネード入りのマグカップを受け取った。
 ず、とひとくちすする。
「はあ。美味しい。沁みる、美味しさ」
「熱が出ると水分が欲しくなるよね」
 穏やかに微笑んで隆が言う。夏美は、昨日から隆の部屋に泊まりに来ていた。テレオペの仕事も有休を使って休みをもらっていた。隆とゆっくり過ごす休日を、と思っていたのに、昨日の夕方から熱が出て、隆に介抱してもらっている。
「夏美ちゃん、お腹すかない?何かテイクアウトしようか」
「うん…。ごめんね。今日は、私が作るつもりだったのに」
 隆と付き合いだしてから半年が経ち、だいぶ隆の食の好みもつかめてきていた。そして、薄皮をはがすように、夏美は隆に敬語を話さなくなっていた。今となっては、なんであんなにかしこまっていたんだろう、と不思議なくらいだ。
「いいよ、いいよ。今回は、僕も夏美ちゃんを労いたかったんだよね。だって、パイロット版の制作も合わせて五ヶ月以上、ずうっと働きづめだったじゃない。そりゃあ、疲れだって出るよ」