「そうだな。僕は社長の息子でいわゆる御曹司ってやつなんだ。父は、根っからの文学少年だからね。紙の本にこだわっていて、ロングセラーの作品の管理とか、ベストセラー作家を大切にすることを中心に動いてる。僕は、父の苦手分野をやることが多いんだ。人気のある児童書のコミカライズとか、ゲーム化とかアニメ化とかね。それに付随するイベントをうまくまわしていったりね。細かいことは、編集長をはじめとするスタッフがやってくれるけど、今回の濱見崎先生みたいな大きな仕事には企画の段階から関わらせてもらってる。できあがってきたものにOKを出すだけでも、多分、僕の仕事はまわるんだろうけど。やっぱり現場の臨場感をいつまでも味わいたいんだよ」
「予想はしてたけど…隆さんが、遠くなりました…」
自分のことを天使というくらいだから、お金持ちのお坊ちゃんなんだろうな、とは思ってはいた。しかし、ちゃんと副社長として働いている隆を想像すると、自分の住む世界とは随分遠く離れている気がする。
「何言ってんの!」
がばっと隆は、夏美の肩を抱き寄せた。
「僕は、すごいものを多くの人に広める仕事ならできるけど、夏美ちゃんみたいにゼロから何かを作り出すことはできないよ。思い出してごらんよ、あの似顔絵描いてもらって嬉しそうにしてた人達の顔を。あんな風に人を喜ばせられるってすごいことじゃない」
「でも、あれは、隆さんが客寄せをしてくれたから」
「違うでしょ。似顔絵描いて満足してもらえたのは夏美ちゃんの実力だよ。自分で、自分を認めてあげることができないと、次のステージにあがれないよ。夏美ちゃんは何かをなす人だと思う。これまで人気商売を目の当たりにしてきた僕の目を疑ってもらっちゃ困る」
本当だ、と夏美は思った。さっきも濱見崎先生との仕事を応援してもらったばかりなのに。卑屈になっている場合じゃない。それは、評価してくれている隆にも失礼なことなのだ。
「わかりました。もうぐじぐじ言いません。とにかく、私にできることからやっていきます。それが隆さんと並んで歩く近道だと思うから」
隆は、夏美の抱き寄せた肩をさらに自分の方へ引き寄せた。
「夏美ちゃん。…今日、帰したくない」
夏美は、少し動揺したけれど、こくりと頷いた。
「予想はしてたけど…隆さんが、遠くなりました…」
自分のことを天使というくらいだから、お金持ちのお坊ちゃんなんだろうな、とは思ってはいた。しかし、ちゃんと副社長として働いている隆を想像すると、自分の住む世界とは随分遠く離れている気がする。
「何言ってんの!」
がばっと隆は、夏美の肩を抱き寄せた。
「僕は、すごいものを多くの人に広める仕事ならできるけど、夏美ちゃんみたいにゼロから何かを作り出すことはできないよ。思い出してごらんよ、あの似顔絵描いてもらって嬉しそうにしてた人達の顔を。あんな風に人を喜ばせられるってすごいことじゃない」
「でも、あれは、隆さんが客寄せをしてくれたから」
「違うでしょ。似顔絵描いて満足してもらえたのは夏美ちゃんの実力だよ。自分で、自分を認めてあげることができないと、次のステージにあがれないよ。夏美ちゃんは何かをなす人だと思う。これまで人気商売を目の当たりにしてきた僕の目を疑ってもらっちゃ困る」
本当だ、と夏美は思った。さっきも濱見崎先生との仕事を応援してもらったばかりなのに。卑屈になっている場合じゃない。それは、評価してくれている隆にも失礼なことなのだ。
「わかりました。もうぐじぐじ言いません。とにかく、私にできることからやっていきます。それが隆さんと並んで歩く近道だと思うから」
隆は、夏美の抱き寄せた肩をさらに自分の方へ引き寄せた。
「夏美ちゃん。…今日、帰したくない」
夏美は、少し動揺したけれど、こくりと頷いた。



