「もしもし」

「響? 今電話しても大丈夫?」


耳に届く甘さのある低い声は紛れもなく悠くんのものだ。


「大丈夫だよっ。どうしたの? 私、忘れ物しちゃった?」


さっきまで一緒にいたのに、電話する理由はそれしか思い浮かばない。

私としては声が聞けて嬉しいけどね。


「忘れ物はないよ。俺が無性に響の声が聞きたくなっただけ」

「……っ」


同じ気持ちだったんだ……。

嬉しくて、憂鬱な気分が嘘みたいに吹き飛んでいった。


「私も同じこと考えてたよ。だから、ありがとう」

「それはよかった」


私と悠くんは取りとめのない話を始めた。





「夏休みもう終わっちゃうよ……悠くんはまだ休みだよね」

「休みは九月の中旬まであるよ」


大学は高校と違って夏休みが長いみたい。

高校も同じくらいあればいいのに……二学期が憂鬱だ。


「羨ましいなぁ……」

「ここまで長いと退屈だよ」


悠くんの苦笑いが聞こえてくる。

悠くんなら、私と会う日以外は友達と会う予定を入れて、充実した日々を送っているものと思っていた。


「バイトはしないの?」

「たまに、知り合いの飲食店の手伝いはしてるくらいかな」


初耳です! どんなお店で働いているんだろう。

カフェ? レストラン?

悠くんが働いていたら、女性客が殺到しそうだよ……!


「私もバイトをしてみたいけど、うちの高校は禁止なんだ」

「誠稜って厳しいね」


うちの高校は、進学校の割に自由な校風だけど、バイト禁止がたまにキズ。

バイトが出来れば、他校や年上の友達が出来たんだろうな……。

早く高校卒業して大学生になりたいです。