「悠くん、今日もありがとう」


自宅に着くと、絡み合った指が解けて、手が離れていく。

だけど、まだこれでバイバイじゃない。

悠くんの両手が私の両肩に置かれる。そして整った顔が近付いてきた。

私は抵抗することなく瞼を閉ざした。

……唇は触れ合うことはなく、すれすれで止まった。

別れ際に、キスの振りをするようになった。

悠くんいわく、これはストーカーに見せつけるための行為だという。

角度によっては本当にキスしているみたいに見えるみたい。

これはストーカーを欺く為でしかない。だけど、私の鼓動は絶えず暴れ続けていた。

振りでもこのざまだ。

本当に触れ合ってしまったら、私は心肺停止してしまうかもしれない。

あんなにドキドキしたのに、いざ離れると寂しさを覚えてしまう。


「響、また明日迎えに行くね」

「うん、またねっ。気を付けてね」


別れ際、笑顔で手を振る悠くんは、梅雨明けの青空のように爽やかだった。

その表情は寸分の狂いなく綺麗なもので、私は頬に熱が集まっているのを自覚ながら手を振り返していた。



悠くん、あんまり夢中にさせないでよ。

いつか悠くんに好きな人が現れた時、諦め切れなくなりそうで怖いの。