ふと、雨音が耳に届いた。
天気予報の通り、激しめの雨が降っている。
来る途中、コンビニを覗いたけど、ビニール傘はタイミングが悪く既に売り切れてしまった。
「お店に行こうか」
北川さんはそう言って、持参したビニール傘を差し始めた。
「あの、いれてくれませんか……」
私は心の中で謝り、躊躇いながら北川さんに声をかけた。
「持ってないの?」
「ちゃんと持ってきたんですけど、劣化で急に壊れたんです……」
壊されたなんて口が裂けても言えない。
咄嗟に思い付いた言い訳を、おどおどしながら伝えた。声が小さくなっていく。
「災難だったね。おいで」
北川さんはそんな私を傘の中に入るように手招いてくれた。
追及されなくてほっとすると同時に、北川さんの「おいで」に胸がきゅんときめいた。
「失礼します」
私は小さな声で呟き、傘に入れてもらった。
目的の店までの道のりを、私は歩道側、北川さんは道路側に並んで歩いている。
ふと見ると、北川さんの右肩が少し雨で濡れていた。
私の背が高いせいで窮屈なんだ……せめて私の背が十五……十センチ低ければ良かったのに。
だんだん申し訳なくなって、少し北川さんから距離を取って肩を縮こませた。
「肩濡れるよ」
だけど、北川さんは距離を取った私を自分の所へ引き寄せた。
触れちゃった……っ。
軽くぶつかってしまい、私は頬が熱くなるのを感じた。


