どうして、二人とも私に優しくしてくれるんだろう……。

気を張っていないと、涙が更に零れ落ちてしまいそうだ。

必死に涙を堪えていた時、瑞穂さんは川端さんに切り出した。


「川端さん、飲み物買いに行こう」

「そうだねー。響ちゃんは北川の傍にいてあげて?」


二人きり!? いくら悠くんが目覚めていないとは言え、川端さんのお願いに目を見張ってしまう。


「あ、あの……」


心の準備がまだです……そう言いたかったのに、言葉が出てこなくて二人は病室を出て行ってしまった。


広い個室の病室に、私と悠くんの二人きり。

ちらりと悠くんの顔を見ると、相変わらず眠ったままだ。

こうして見ると、まるで精巧に作られた人形みたいに綺麗過ぎる。

澄んだ琥珀色の双眸は瞼が閉ざされて見えることはない。


「私のこと、嫌っていてもいいから……早く目を覚まして……」


嫌われるなんて本当は怖い。

それでも、私拒絶しても、他の人と付き合っても構わないから、悠くんには生きていて欲しいの。

切実に願わずにはいられなかった。

響はは悠くんの大きな手をぎゅっと掴むと、自分の頬に寄せた。


本当は悠くんに依存したくなかった。健全で真っ当な関係を築きたかった。

しかし、それを望むことを許さないと言うようにドロドロに甘やかされる。

縋って駄目になる私を、許さないでいて欲しかった。

それなのに、悠くんはそんな弱い私を無条件に受け止めてくれた。


悠くんから離れると、私はこんなにも腑抜けてしまう。

いつしか私は、悠くんのいない日常が想像出来なくなっていた。

ただ想うだけで幸せだった無垢な自分は、もういない。