「そう言えば、この前言ってた予備校はどうするの?」


甘い一時を過ごした後、悠くんはそんな疑問を私に投げかけた。


「あ……」


あんな出来事があったせいで、予備校のことはすっかり頭から抜け落ちていた。


「同じ学校だけじゃなくて他校の男もうじゃうじゃいるけど、それでも通いたい?」


予備校に別学はない。

男子も普通にいる。

その事実に、私は血の気が引くのを感じた。


皆がみんなあの男の先輩のような人間じゃない。

頭で理解していても、女にはない腕っぷしの強さを目の当たりすると、また恐怖に支配されてしまう。


「どうしても帰りが遅くなるでしょ? 響が事件に巻き込まれたら俺は心臓がいくつあっても足りないよ」


自分に限ってはありえない。

その考えを捨てた私は、また悠くんに心配をかけてしまうかもしれないという罪悪感でいっぱいになっていた。

私のわがままで心配かけさせたくない、不安にさせたくない。

何より悲しい顔をさせたくなかった。


もう私の中で答えは決まっていた。


「私……予備校はいかない……っ」


予備校には通わない。

私は泣きたくなるのを堪えながら、はっきりと悠くんに告げた。


「そっか……これからは俺が勉強を見てあげるからね」

「弱くて、頼ってばかりでごめんなさい……」


精神的に自立したかったのに、結局、悠くんに甘えてしまった。

悠くんは情けない声で謝った私の髪を優しく撫でる。


「響が罪悪感を持つことは何もないよ。俺は彼氏として響の力になりたいだけ」

「ありがと……」


どうして、付き合っているからって親身になって寄りそってくれるの?


「俺はいつでも響の味方だからね」


悠くんがくれる肯定の言葉は、自己嫌悪に陥る私の心に奥深くまで染み込んでいった。