「こんにちはー」

 その日の夜、私は卯月家にやってきた。

 叔母さんが用事があるっていうから、今日の晩ごはんはここで食べることにしたんだ。

 最近、叔母さんったら夜留守にすることが多いんだよね。

 さては、また新しい彼氏でもできたな。

「おかえり、花帆。今日は寄せ鍋だぜ」

 夕ご飯の準備をしている秋葉が出迎えてくれる。

「あれっ、今日は秋葉が食事当番なの?」

「ああ。兄貴は遅くなるって」

「そっか」

 私はエプロンを着け、鍋に向かう秋葉の背中を見つめた。

 秋葉のエプロン姿、かっこいいな。

 でも二人っきりだなんて……。

 全くもう、莉茉ちゃんにあんなこと言われたもんだから、なんだか妙に意識しちゃうじゃん。

「あ、あのね」

「何だ」

 声をかけると、秋葉が振り向く。

 鍋からは、昆布や魚介を煮込んでいるようないい匂いがした。

「秋葉、クリスマスはどうするのかなーって」

 恐る恐る聞いてみると、秋葉はキョトンとした顔で答える。

「どうって、いつものように和菓子作りだけど?」

「和菓子作り?」

「正月前は、おまんじゅうとかお餅がよく売れる時期だからな」

 確かに、お正月といえばお餅だけど……。

「だからそれに備えて、お餅や日持ちするお菓子は沢山作っておかねーと」

「そ、そうだね」

 何だか寂しいけど、仕方ない。

 そうだよね。和菓子屋にはクリスマスなんて関係ないんだから。

 期待はしてなかった。

 でも……ちょっぴりがっかり。