真夜中のサーカス

「お初にお目にかかります。私はこのサーカス団の団長です。本日は、お二人のご案内をさせていただこうと思っております」

そう言いながら団長は右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出し、ヨーロッパ貴族のお辞儀を見せた。

「えっと……」

「よ、よろしくお願いします」

律と凪がそう言うと、団長はニヤリと笑って「こちらへどうぞ」と言いテントの中へ入って行く。その中に広がる異世界に、律の瞳が輝いた。

このサーカスを訪れているのは、律と凪だけのようだ。客席はすべて空いており、特等席でショーを楽しむことができる。

「このショーの最中は、あっちもこっちも見境なくお楽しみを」

団長がそう言った刹那、軽やかな音楽が鳴り響き、笑った顔のピエロたちが次々とステージに現れ、おどけてジャグリングを披露する。

「わあ！」

突然始まった非日常に、凪は一瞬で引き込まれたようだ。律も、派手なメイクをして笑うピエロたちのパフォーマンスに胸を高鳴らせていた。