「桐乃はかなりためらってたけど、俺が半ば強引にマンションに連れて行った。それが俺たちの出会った日の出来事。」
紫苑は私の様子をうかがうように体を少し起こす。
「何か、思いだすことあった?」
心配そうに顔を少しゆがめる紫苑。

私が首を横に振ると、「そっか」と紫苑は視線を私のお腹に移した。

「あなたのこと、もっと教えてもらってもいいですか?」
少し遠慮しながら私が紫苑の方を見ると、彼は優しく微笑みながら頷いた。

「なんで敬語なんだよ。いいに決まってるだろ。」
紫苑はそう言って微笑みながら私に自分の話をしてくれた。

紫苑は長野出身で、東京の医科大を卒業して大学病院に就職、ニューヨークへは研究が認められて条件付きで留学しているという。年齢は30歳。
英語は留学したくて、中学生のころから勉強していたらしい。