「駄目だ。何故か分かんないけど、名前、書くだけで照れる!」



思わず、1枚目の便箋をくしゃくしゃに丸めた。

手につけた途端、こんな調子で手紙なんて書き切 れるのだろうか。

少し不安にもなってきた。

頭の中で、複数の私が脳内会議を始める。



「ラブレターって言ってるけど、何書くー?」

「そもそも、宛名で躓いているようじゃあ、ねぇ?」

「もう、手紙は諦めて、口頭で伝えるべきではないかと。その方が気持ちも倍、伝わると思いますけれど」

「でも、それじゃ振り出しに戻っちゃうじゃない! せっかく手紙を書く、って決心固めたのに。それに、口頭だったら、またしくじって『幼馴染みとして』とか言い出しかねないでしょ?」

「確かに」



秘書風の如何にも真面目そうな私が、強気なアラサー女性風の私に言いくるめられている。

ギャル風の私も、うんうん、と髪を弄りながら、気怠そうに頷いている。

すると、それまで静かにしていた、ちょっとヤンキーを拗らせた風の私が、口を開いた。



「そもそも『今更、無理』って、フラれてるのも同然の状況で、告白しに行くって、どうなん?」



周りに居る、他全員の私の顔が青冷める。



「バカ! それ言っちゃ駄目なやつー!」

「そ、そこはもはや、当たって砕けろ精神で、元々行くつもりでしたから。その時の記憶の封印を解いてはなりません!」

「みんな、めちゃくちゃ焦るじゃん。そんなんで、手紙を実際に手渡し出来るかも、怪しくね?」



ギャル風と、秘書風の私は、ワタワタと慌てていて、まだ何かを言い返そうとしていた。

しかし、言葉にならず、その場で慌てふためいているだけだ。

――この会議、きっと続けたところで、無駄だ。

結局、答は出ない。