「よく通りましたね。まさか真面目で、冷静そうな蜂矢くんが、そんなペラペラな嘘、使うなんて」

「どうせ昼に変なもん、食ったんだろう、って。それで終わりました」

「へぇ。有り得ない。緩過ぎません? まぁ、でも、それなら帰り、誰にも見つからないようにしないと」

「大丈夫っす。ずっと寝てたって言えば」

「こんな時間まで誰も起こしてくれない設定の蜂矢くん、可哀想……!」



何故だか、やたらと2人の距離が近付いている気がするのは、私だけなのだろうか。

楓が海藤くんなど数多くの男子が必ず目に止める程の美人さんで、話上手だから、やっぱり男の子は、その気がなくても、その魅力に惹かれてしまうものなのかも。

ほんの少しだけ、どちらにも妬けてしまって、彼女の袖を掴む。

それに気付いた楓は、細い体の全部を使って、ありったけの気持ちをのせて、私をぎゅっと抱き締めてくれた。

そして、すぐに私の顔を覗き込み――。



「華世、どうした。私がこの世で一番大好きなのは、華世だぞー? 大好きだぞー! ……ごめん。不安にさせちゃった?」

「ううん」

「蜂矢くんと話しすぎちゃってる、ね。私。真面目にごめん」

「ううん。2人が仲良くなってくれたのは、とても嬉しいの。嬉しいんだけど、ううん。嬉しいのは本当で……」

「うぐっ。華世は、こういう可愛い子です。今後とも、彼女をよろしくお願いします」



楓は、私を抱き締めたまま、健太くんに頭を下げる。

何、この茶番は。

思わず、恥ずかしくなる。

赤くなった顔を楓の肩に埋めていると、まさかの健太くんも頭を下げる。



「それは十分存じております。こちらこそ」



茶番に、まさか付き合ってくれるとは思っていなくて、驚く。

それよりも、同意をした健太くんに、動悸が止まらなかった。