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とうとう1日も終わりを向かえ、私は西日の差す教室に1人で居た。

今日、最後の黒板も綺麗にしたし、教室全体の掃き掃除も済ましたし、窓の鍵が締まっているかも確認した。

あとは、日報を書いて、出入口の鍵さえ締めれば完了だ。

無事に、今日も帰ることが出来るはず。

このまま、1人で居られれば。

教卓に立ち、日報ノートをパラパラと捲って、最新のページを広げた。

左上に、日付けを書き込む。

続いて、その右隣に担当者。

――あの人の名前は、代理で書いてしまおう。

例の人の名前の1文字目、さんずいの3画目を払い切った途端に、教室の引き戸がガラガラと嫌に音を立てて開いた。

だいたいの人物の予想はついていたので、敢えて顔も上げずに、無視を決め込んだ。

しかし、それがかえって、仇となる。

その人物は、いつの間にか私の背後まで辿り着いていた。



「やぁ。栗山さん、今日は来てみたよ」

「海藤くん……」



耳元で囁かれ、ゾワッとする。

私は、彼に対して、こんなに嫌悪感を抱いていたかなと、とても不思議に思う。

きっと本性を知るまでは、ここまでじゃなかった。

細かいことを言えば「お疲れ様」「今日1日、任せちゃって、ごめんね」とかの一言も無い。

心遣いをするか、どうかの問題だ。

さて、彼は今、どんな気持ちで表情で、私と話しているのだろう。

また何も考えていないような瞳で、私の背後に居るのだろうか。