私達2人の顔面を交互に楓が見て、キョトンとしてみせる。
その表情も、相変わらず可愛いと思うけれど!
「ありゃ、言っちゃいけないことだったかな?」
「だっ、いやいや、だって、だいたい俺は、華世ちゃんに一度、嫌いって、はっきり言われてる身なんで」
そう言って、健太くんは棒読みのような、わざとらしい笑い方を続けた。
楓は、私をじっとりと見て、口角を徐々に上げていく。
「華世さん? 拗らせてますねぇ」
「え、あれ? わ、私、嫌いなんて……言っちゃってた……?」
夢の中だけでの私の妄想だと、現実の私には、そんな勇気がある筈がないと決め付けていた私。
冷や汗がダラダラと垂れる。
そんな私に、健太くんは大きく目を見開いた。
「嘘……だ、ろ。まさか覚えてるの、俺だけ?」
「ごめんね……?」
「ちょっと待って。今、謝られると、なんか、いろいろキそう」
健太くんは頭を抱えてしまった。
――私、そんなこと言っちゃってたんだ。
少しずつ自身が青ざめていくのが、分かった。
そして、私の中にも残っている確かな記憶の欠片が、1つ浮かぶ。
「もしかして、私がそんな酷いこと言っちゃったのって、中学の2年生に上がる前?」
「おいおい、覚えてんじゃん……」
健太くんが、分かりやすく項垂れる。
大きな男の子が見事なまでに、振り回される姿を見て、楓は面白がっていた。
私はと言うと、先程まで肩を抱いてくれていた温かい手が離れて、図々しくも淋しいなんて思ってしまっていた。
その手をまた、ぎゅっと捕まえる。
その瞬間だけは、楓が目の前に居るのも、忘れて。



