「それは……」



確かに覚えている。

健太くんがここへ駆け付けてくれた時、彼の息が切れていたことを。

急いで来てくれたということ、私の為に。

具合が悪いと、言葉を詰まらせる健太くんの顔は――。



「すごい! 耳まで真っ赤だよ」


瞬間、驚いたが、すぐに面白くて、そして愛しく思えて、つい笑ってしまった。



「そんなに笑わないで……」



顔を片手で覆う彼を、少しだけ気の毒に思い、笑いをやや堪える。



「ごめんね」

「いや、いいけど。……担当のトイレ掃除が終わったから、教室に戻ろうと思ったけど、窓から裏庭の2人が見えて。何かあんまり良くない雰囲気だったから、慌てて飛んで来た」

「あそこのトイレから?」



そう言って、1階のトイレがある方向を、私は指差した。

すると、私の指の先よりも、もう少し高い位置を健太くんが指差す。



「いや、4階のトイレから」

「へ」



――健太くん、いつの間にそんな超人になったの。

握力、脚力、これは素晴らしい選手になるに違いない。

そんなことより、ちゃんとお礼を言わないと。



「ありがとうね。来てくれて。正直、本当に怖かった、から」