「本人たちに、聞こえるよ」

「聞こえるように言ってるんだから。華世は『何でも屋』じゃないぞっ」

「や、止めてよ。そう思ってくれるのは、有難いけど。だけど、誰かに『好きだ』なんて伝えるのは、簡単な事じゃないと思うな……」

「だから、手伝っちゃうって?」

「うん」

「ダメダメ! 簡単じゃないから、大事なことなんじゃないの?」



楓に言われて、ハッとする。

私は、もしかして余計なことをしてしまったのかもしれない。

本人が海藤くんに直接渡しに行けば、熱意が伝わって、良い結果に繋がっていたかもしれないのに。

私だって、ただ1人から特別な愛を向けられてみたいと思うなら、ちゃんと本人から伝えてもらいたい。

もし、また頼まれるようなことがあったら、しっかり断ろう。

依頼してきた、その子のことを思って。



「目から鱗です、楓さま!」

「分かれば、よろしいのだよ。華世くん」



いつものノリで、賑やかにふざけ合う。

その間にも、海藤くんに貸した数学のノートは、未だに戻ってくる気配は無い。

そんなことは気にするのを止めて、今日の帰り道に寄る、ジューススタンドのメニューをスマホで見ながら、他愛もない会話を続けた。