そんな私に、海藤くんは一歩、距離を縮めた。
反射的に私の体も、半歩退いたにも関わらず、男子の一歩の方が大きかったらしく、一気に距離は近くなる。
「どうしたの? 栗山さん、いつもに比べて、硬いよ? いつもみたいに笑ってよ」
「そんなこと、ないよ……」
「俺、栗山さんの笑顔が好きなんだ。『健太くん』じゃなくて、俺にだけ、これからは俺にだけ笑いかけてよ」
そう言った海藤くんは腕をそっと、こちらに伸ばす。
私の頭に容易に届いてしまう、その距離から逃げ出したくなった。
それでも、足は強張ったままで。
ぐっと目を瞑った。
その瞬間、見えていない瞼のその先で、動きが止まった気配がした。
恐る恐る瞼を開けると、何故か息を切らす健太くんが居た。
そして、その大きな手は海藤くんの腕を掴んでいる。
自身の腕に筋が浮き出る程に。
海藤くんは、相変わらずの笑みを浮かべたまま、声を発する。
「付き合ってんだっけ?」
「……嫌がってんだろ。止めろよ」
「そんな訳ないか。蜂矢みたいな野球一筋のお堅い奴に彼女とか、あり得ないもんな」



