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「やっぱさ、仲良いんじゃん」

「何が」



昼休み。

案の定、海藤 颯太に絡まれる。

弁当を食べ終わって、野球の指南書を読みながら、ボールを握って、握力を上げる為のトレーニングをしていたところだ。

如何にも分かりやすく、貼り付けられた様な笑顔は薄気味悪い。

機嫌が悪いなら、そういう顔をすれば良い。



「だから、何がだよ」



俺は、その愛想笑いだとか、作り笑顔だとかがどうも出来ない。

だからと言って、表情が薄いとは自分では思っていない。

むしろ、感情に正直過ぎて、我ながらヒヤヒヤしている。

今も多分、俺は不機嫌そうにしていることだろう。

それでも、海藤は薄気味悪い、その笑い方を止めない。



「蜂矢と、栗山さん。やっぱ、仲良いんじゃん」

「別に。幼馴染みなだけだ」

「幼馴染みってだけで、いつまでも、ましてや高校生になっても、まだ健太くん、健太くんって……。懐いてるのも変な話だと――

「お前だけの偏見だろ、そんなの」



気づけば、自分の机を叩き、立ち上がっていた。



「……それに、俺はあいつに嫌われてる」



それだけ言って、教室を後にする。

胸くそ悪くて、あの空間に1秒として居られなかった。

海藤の奴、華世ちゃんのことを「懐く」とか、動物みたいに言いやがって。

沸々と沸き上がる、確かな怒りを静かに噛みころした。