「ちょ、なんで笑うの」

「や、ごめん。なんか、か……」



可愛くて。

本当はそう言いたい。

それが、本心だし。

でも、言ったら、あまり良くないことが起こる気がする。

俺にもそうだけど、彼女にも起こり得ることかもしれない。

グッと堪えて、言葉を変える。



「……面白くて、笑った」

「納得いかないなぁ」

「ごめん、ごめん」

「別に今さら、良いけどさ。それより、お弁当、忘れてってるよ」

「え、あ、本当だ。ありがとう」



何故、彼女が俺の弁当箱を持っているのか。

不思議に思いつつも、受け取る。



「私が家出るときに、健太くんのお母さんから頼まれたの。『うちの子、朝、バッタバタして、そそっかしいから、また忘れてっちゃって』ってお母さんからお預かりしました」

「本当にすみませんでした。ありがとうございます」

「いいえ。気をつけてくださいね」

「はい」



戻っていく彼女の気配を確認して、受け取った弁当箱を抱えながら、机に突っ伏せた。

今日は朝から、こんなに話せるイベント事があろうとは。

もっと話したい、もどかしい、むず痒い。

でも、もっと嫌われるのも怖い。